九州旅ヒト・コト・モノ「手延べ麺の肥後そう川」

九州各地の良さを知ってもらうきっかけとして、九州の旅で出会える「ヒト・コト・モノ」にスポットを当てたインタビュー記事です。魅力ある九州をお届けいたします。
PB商品のそうめんだけで100を超える製麺所
すっかり暑くなってきた。そろそろそうめんが美味い季節だ。そうめんと言えば九州は島原そうめんの知名度が高く、続いて神埼そうめん、南関そうめんといったところか。しかし、道の駅でちょくちょく見かけるご当地そうめんとうどんの製造者をよく見ると「肥後そう川」の名が。実はそうめんのPB商品数100以上を誇る熊本県・甲佐町の製麺所なのだ。


始まりは「父の脱サラ」開業
有限会社肥後そう川は小さな田園地帯の一画に建つ。国道沿いに直営の飲食店を構え、その裏手が工場だ。工場を案内してくれたのは専務取締役兼工場長の阪本憲作さん。ここでは手延べそうめんとうどんだけでなく、乾麺のそうめん、そば、冷やし中華、「らーめん」にパスタなども製造しているという。その歴史は創業32年で阪本さんは2代目。老舗の予想を裏切る。
さらに創業者である現社長の憲市さんは元県庁職員、つまりれっきとした公務員だったのだ。「愛知県で製麺所を経営していた父の友人が第二工場を熊本に造ったんです」。時はバブル時代、高級な手延べそうめんは飛ぶように売れた…が、間もなくバブル終焉。熊本工場は撤退に。友人を手伝っていた父の憲市さんは引くに引けず、県庁を辞して製麺所経営を始めたのだった。

日本人の知恵と勤勉さが生んだ手延べ製法
工場では25人の従業員が働き、一番の早出は早朝4時から。「手延べそうめんの工程は機械麵と違って工程数が多く、丸二日かけて完成させるんですよ」。手延べそうめんの原料は小麦粉と塩と水、くっつき防止に少量の植物油と打ち粉を使用する。材料をこね合わせて生地を作り、熟成させて「麺帯(めんたい)」を作り、それを何層も重ね合わせて下地に。これに圧力をかけて延ばす圧延と熟成を繰り返す。


延ばしと熟成の繰り返しを経て、細く延ばしたら2本の管に8の字に掛けていく。「掛巻(かけば)」と言われる工程だが、阪本さんが掛巻を終えた状態のものを差し出し「引っ張ってみてください」。切れそうで手加減すると「大丈夫、思いっきり引っ張って」。強いゴムのような弾力で切れない!
「8の字に掛けることで麺どうしのひっつきを棒でほぐせます」。そして熟成させては引っ張りを繰り返し、均一でグルテンの繊維が縦に揃うのだとか。グルテンの粘りと弾力性が強まり、それが手延べそうめんの弾力のある食感とツルっと滑らかな喉越しをもたらす。
半乾燥して一晩寝かせてから麺を本乾燥させる。長さ60センチに伸ばした「小引き」状態の麺を「門干(かどぼ)し機で1.6メートルほどに伸ばし、二本の細い棒で均等にさばく。さらに手作業で2メートル前後に伸ばして乾燥させて完成。


さらにもうひと手間加えたのが半生麺であるオリジナルの「潤生」。水分値12%まで乾燥させた麺を湿度95%の「もどし室」でミストと蒸気を当てて潤いを与えたものだ。乾麺に比べ賞味期限は短いが、より熟成が入り、もっちりとした食感が喜ばれる。「しっかり重ね、しっかり延ばして麺にするこの手延べ製麺法は日本独自。最初に考えた人はすごいなと思いますよ」。努力を惜しまない日本人の技が手延べそうめんを生んだと熱く語る。


「手延べ」にそうめんの未来を見出す

さて、憲作さんは多摩美術大で建築学を専攻し、東京の建築事務所に勤務していた。しかし、20年ほど前に父の製麺所の経営状況を知って帰郷。父同様に脱サラで製麺業を営むように。「バブルも崩壊し、高価な手延べそうめん離れも進んでいました」。憲作さんはデザイン会社を経営する多摩美術大のバスケ部先輩に、肥後そう川の包装に使うデザインコンセプトを依頼。基本コンセプトを大事にし、肥後そう川ブランドを確立していったという。
製麺業界が厳しい中、肥後そう川は「手延べ」で麺類を作り、ご当地特産品とコラボした多彩なPB商品で生き残りを賭けている。「手延べは製法に明らかな違いがあり、明らかに美味しい。そこに未来はあると思っています」。美味しい麺を作れば人に知れ渡る。それが経験値となって支える。
直営の売店レストランでは工場直送の麺料理を提供する。色鮮やかなトマトそうめんあり、モチモチとしてコシのあるうどんあり、味噌にゅうめんあり。そば、中華麺、パスタなど、いずれも手延べならではのしっかりとした麺のうま味と弾力で楽しめる。


旅先の道の駅や土産店で特産品を練り込んだユニークな乾麺を見つけたら、その製造元が「肥後そう川」だったら、間違いなく美味い麺だ。
肥後そう川手延べ麺
伝統の製法と厳選した素材を用いて丹念な”手延べ麺づくり”にこだわり続けている。
そうめん・うどん・ひやむぎ・そば・ラーメン・冷やし中華・五穀パスタなど、さまざまな麺にこだわりの手延べ製法を用いているという挑戦の姿勢も人気の秘訣だと思わされる。
直売所・食事処 | 〒861-3206 熊本県上益城郡御船町辺田見1670−1 |
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